昼食をとりに、あるレストランに入った。そのレストランは、食事はさほどおいしくないし、場所も分かりにくい場所にあるので、お客さんは少ない。内装もぱっとせず、食事が出てくるのも遅いのだが、とにかくお客さんが少なくて静かなので、誰にも会わずに静かに一人になりたい時に行く。
その日も、そのレストランにはお客さんが殆どおらず、現地人と思われる中年の女性が一人いるだけだった。私と同じ目的でここに来ているのか、紅茶を飲みながら、少し厚めの書類の束に目を通していた。
折角、人のいないレストランなので、わざとその女性とは離れた席に座った。あまりぱっとしないウェイターが注文を取りに来た。出てくるのが遅いので、直ぐに食べ物と飲み物を頼む。民家を改造して作られたレストランなのか、厨房は母屋、客席は庭というような作りになっていて、一旦ウェイターが中に入ると、客席は客だけになり、しかもウェイターはなかなか帰ってこない。
私もカバンから本を取り出して読む。珍しくもう一人のお客さんが入ってくる。先着の女性のテーブルに座った。女性二人で親しげに楽しそうに話し始めた。最初は静かな感じで話していたので、本を読むのに耳障りにならなかったのだが、途中から話が盛り上がってきたのか、だんだん話し声が大きくなってくる。時々、話に花が咲くのか、私が本を読む集中力が途切れるくらいになってくる。
私は現地語が分からないが、もし分かっていたら、話の内容も丸分かりになるだろう音量で話している。女性二人のあの盛り上がり方からして、他人に聞かれては宜しからぬ会話を楽しんでいるのではないだろうか。少し遠目に座っている東洋人は現地語が分からないだろうと、思っているのだろう。正解である。私も本を読みたく、お話には関心がない。
気の利かぬウェイターは、なかなか客席には帰ってこず、二人の時々大きくなる声を少し耳障りに思いながら、本を読み続ける。日本語であの音量で話されていたら、完全にそちらに関心がいってしまい、本が読めなくなるのだろうが、音は聞こえるが意味は分からないので、そこまで気にならない。異邦人でいるということは、心地良いことだと思った。