初めての空の旅

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アクラ空港からアディス・アベバ間の便はボーイング787でまあまあ大きな機体だったが、まあまあ込んでいた。コロナ禍で機内は空席だらけという話をあちこちで聞いたこともあり、チェックインカウンターで窓側を断らなかったことを少し後悔した。

 

当初、横に3人掛けだったのだが、幸いにも通路側の男性がもっと余裕のあるところに移ってくれて、中央席の男性が通路側に行ってくれたので、中央席が空いて少し気が楽になった。

 

通路側に座った男性は30代後半だろうか、飛行機に乗るなりずっとスマホで自撮りを続けている。写真が特別なものだった時代に育った世代の私は、ひたすら自撮りを続ける人を見ると、被写体として写真を撮るような顔かなど要らぬ事をとついつい思ってしまう。

 

時差を逆行する便で、お昼発、夜着の便だったので、外はだんだんと暗くなって、完全に夜になった。時々、通路側の男性の友人が通路側の男性に話しかけに来るのだが、おそらく通路側の男性は飛行機が初めてで、彼を安心させようとしているように見えた。

 

何度目かの時に、通路側の男性の友人が私に話しかけてきた。この飛行機には窓ガラスを明るくしたり暗くする機能があるのだが、私の友人に外の風景を見せたいから、ぜひ窓ガラスを明るくしてくれと言う。787の窓ガラスにその機能が付いていることは私も知っていたが、外は既に夜である。窓を明るくしたところで、外に何も見えない。

 

断る理由もなかったので、通路側の男性の友人の言う通りに窓を明るくした。ただ、外は夜なので何も見えない。通路側の男性の友人は、やや困ったという表情と私にお前は何も分かっていないという二つの表情が混ざったような表情で自分の席に戻って行った。

 

その後、トイレのランプが緑なのを確認した上で、トイレに行った。トイレのドアを空けたら、暗闇の中に若い男性がいて、ちゃんと服は着た上で立っていて、やや驚いた。周りの人は彼が内側からのドアの開け方を知らないことを察知したようで、私に開けろ、開けろとしきりに言ってきて、だったらお前が開けろと思いつつ、しかし、そんな手法で彼らは私より先にトイレに入ろうとしているかもしれないと思ったので、私は自分でドンと勢いよくドアを開けた。危うく折りたたみのドアが暗闇の中の彼の頭にぶつかるところだったが、どうにか暗闇の彼はトイレから出ることができて、私もトイレに入ることができた。

 

着陸が近付いてきて、通路側の男性の要求はだんだんと増えてきた。英語を話さない人なので、何を言っているのかちゃんとは分からないのだが、先ず彼のスマホで彼本人の写真を撮ってくれ、次に着陸が近付くと彼のスマホで外の写真を撮ってくれ、いや着陸は写真でなくビデオで撮影して欲しいみたいなことを言っている。彼の初の空の旅を台無しにしてはいけないと思い、手振れや目をつぶった瞬間の可能性を考えて、何枚も彼の写真撮影を行い、着陸のシーンもなるべく手振れしないようにビデオで撮影してあげた。

 

通路側の彼はそれを当たり前のことのように思っているようで、当たり前のように私からスマホを受け取り、お礼の一言もないまま飛行機から降りていった。ただただ天然なだけで、彼に悪意はなかったと思う。

 

仕事柄、飛行機に乗ることが多く、乗る度になにかしらできごとがあって、楽しめる時とそうでない時とある。今回は久し振りの飛行機だったこともあってどうにか楽しいと思えたが、また頻繁に乗るようになってきたら、同じできごとが起きてもまた受け取り方が変わるかもしれないと思った。

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